その13:巨人霊廟

「巨人の物語は泣ける……」という意見をちらほら聞きます。……どこが? あんなもん、仕掛けを考えた後に後付でストーリーくっつけただけじゃい。なんじゃい、湖を運ぶって。祈りをはじめたがどうした!

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ということで巨人霊廟であります。ここはもう、巨人です。巨人をどうするかに全てがかかっているフィールドです。
改めて思うに、この巨人霊廟が最も自分の考えたコンセプトに忠実なフィールドだと思います。謎解きと仕掛けってだけでなく、古代遺跡を感じさせるつくりとしてね。巨人族の物語を元に謎を解いていくと言うのも考古学者という設定が活きる。
そもそも巨人霊廟はオリジナル版の頃から導きの門とセットでチュートリアルとなるフィールドとして作られています。確かduplexさんが、「導きの門で仕掛けのチュートリアルだったんで、石碑を読み解くことで仕掛けを解くチュートリアルもあったほうがいいんじゃないですか?」って言ったのを採用したんだな。
そこから9つある巨人像の名前を古文書から推理するって言うスタイルにしました。ちょうどこれを考えるちょっと前にエジプトに旅行に行ってたんです。エジプトのファラオ像にはだいたい腰巻のところにヒエログリフで王の名前が入れてあるんです。名前刺繍入りふんどしみたいなもんです。つまり古代エジプト文字さえ読めれば石像を見るだけで誰の像かわかるんだなーと言うところから発想したものです。

ここはチュートリアルと言いつつ、導きの門以上にひどい物が紛れ込んでますよね。
まずはダイナミックなプレス死。倒れる巨人ですね。プレス死と言ってますが、厳密に言えば接触ダメージです。
開発中盤ぐらいまではこの背景オブジェクトをアニメさせる仕組みにダメージ判定はつけられなかったんです。「倒れる巨人にダメージ食らったほうがおもしろいぞ!」という意見が出たので実装をお願いしました。つまり、巨人大圧殺は俺ではない誰かの仕業だ。いや、もちろん仕込んだのは俺だけど。
で、この巨人アニメ自体は開発初期からこの形に出来上がっており、LA-MULANAの仕組み上、いろんな形のパーツが回転しながら動くものに正確なダメージ判定をつけるのが難しかったんです。
では実際にどうやっているかというと、倒れる巨人のアニメに合わせて針と同じダメージ判定が瞬間的に発生するように組み上げました。そのデータを見てみると、100ダメージとなっている。つまり即死ではないんだなー。体力が100以上あれば死なないんだなー。よかったね。

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サキトもひどいよね。これはオリジナル版の頃からそうだったけども、この段階でここまで強いボスを出すことで「後回しにしてもいいんだよ」ということを暗に伝えたかったんですよ。LA-MULANAはステージを順番に回っていくゲームじゃないよってね。
リメイク版はオリジナル以上にその性質を際立たせて作ってもらったんですが。というかね。オリジナル版のときに仕様書を作ってプログラムしてもらった結果、俺の想像とは違う次元の難しいボスに仕上がったんですよ。俺の頭の中では「2番目相当のボス」だったのが、実際に作ってもらうと見当違いだったというね。だったらそういうコンセプトだったと言うことにしておこうって。

そしてそして。2度読みの石碑ですわね。
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これはもう、オリジナル版もここにあったからリメイクでもここに置きっぱなし。発売後、動画配信が多く公開されるようになってから「ここに置いたのが間違いじゃないの?」という意見を聞きましたが、いまさら知るか。
しかし、動画配信や生放送なんかをたまにチェックしてみると、いるはずのない強敵がさまよっている中を進む配信なんかを目にします。それを見るたびに「あぁ……ごめんな……。」と思いつつ、そっとブラウザを閉じるのです。
開発中のリメイク版Windows版(呼び方を考えないとねぇ)では先ほど言ったような、「置き場所変えたら?」「元に戻せるようにしたら?」という意見が俺を襲いました。それこそ1対他って感じで。
これはどうしようかと本気で悩みました。あらゆる解決策を考えては見るんですがどーも腑に落ちなくて。結局つっぱねて場所も変えず、元にも戻せるような仕掛けも置かず。

なんといえばいいんだろう。知らずに2度読んでクリアできなくなってしまった人を見ると申し訳なく思うけども、だからといってフォローあり、事故率低下というのは何か違うんじゃないかなぁ……と悩みまして。
LA-MULANAのリメイク自体はもう存分にいじりつくしたので2度とリメイクすることはないと思ってます。とはいえ、なかなかどうして1機種だけでは売り上げが成り立たなくてね。海外でもなかなか出なかったしさ。残念ながらポリシーには反しますが、Windows版に限らず他の機種に移植するって事はありうると言わざるを得ない。
そのたんびに不評だったところを直すってのはユーザーのことを考えたともいえるし、後発になるほどより良いものにしていると言うことも出来るでしょう。
でもこの2度読み石碑は不評とは違う気がして。なんつーの? 遊んだ機種は違えど誰もが体感した共通体験?
「2度読み石碑はひどかったよなぁ。」「そうそう、あれはひどすぎる!」という会話の中に、「そうでもなかったよ?」という会話が入ることを避けたかった。
遊んだ人の意見を取り入れるのも親切な行為かもしれないが、作った本人が「LA-MULANAは入って2番目の面で絶望を味わえるゲームです。」と筋を通してぶれない方を採った。責任は俺に。しかし後々LA-MULANAというゲームが深く記憶に残ってもらうほうを採用。
とはいえ、Windows版では2度読むと「お前はとんでもないことをしたぞ!」というのが見てわかるようにはしました。

おおっと。だからといって一切不評を聞き入れないわけではないぞ。
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一番下にある天文盤は地味ながらこのフィールドの中でもっともリメイクされた部分じゃないでしょうか。オリジナル版に比べると非常にシンプルです。行ったり来たりの面倒さはそのままなんですが。
これは何で不評を聞き入れたかと言うと、答は単純、「めんどくさい」からです。
ゲームをやっているひとが「面倒」と感じるのは単純作業や長い手間が繰り返されるときです。コンティニューしてからやり直す部分もこれに該当します。
これを面倒と感じさせない為の工夫が不可欠だし、そもそも面倒と感じさせるようなものを作らないのも大事。しかしゲーム作りが難しいのは、この「面倒」もうまく使えば面白さに変わるんですよね。「面倒」とか「困難」に対して、それを越える「報酬」があれば面白さに変わるんです。
オリジナル版の天文盤は仕掛けが解けるという報酬に対して面倒が上回ってると思ったので変更したまで。面倒が上回っていたゆえに出た不評はしっかり取り入れなければ。まとめると、

 オリジナル版は、面倒:「法則の難しいパズルを繰り返す」
  =>報酬:「巨人が寝てた」
 リメイク版は、 面倒:「回してマークを変えるだけ」
  =>報酬:「巨人が派手にぶっ倒れた!(100ダメージつき)」

とこんな感じに、面倒と報酬のバランスを取り直したというお話。そうそう、天文盤もスキャナで調べられるよ。

他にも細かく見ると、結構このフィールドは意地悪なつくりです。油断して落下するとだいたい針が待ち構えてますしね。これはオリジナル版の頃からこうだった。導きの門と比べて広い場所が多い分、単調にしない為にこんな感じにしたんだっけな。

グラフィックとかマップの話もしておきましょう。
スキャナで調べられるものが結構あります。これは巨人の話が「ロケット作って宇宙に行く」っていうものなので、世界各地の地上絵とか壁画から、宇宙を連想させるものを集めて配置しまくりました。
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UFOの為の滑走路か?と言われているナスカの地上絵、宇宙人を描いたのではないかといわれているアボリジニのウォンジナ神とか。メッセージは仕込めませんでしたが、巨人の物語を壁画にしたものもあります。Wiiではほとんど見えないでしょうけど。
逆さにひっくり返った樹とか、あと0から9の数字が書いてある石碑。オリジナル版では「とにかく全部の数字が入ってりゃいいや」ぐらいの適当な文章だったのを、しっかりと自分の中で設定を作ってから変更しました。
ここに限らず、オリジナルで適当に考えてたものはだいたい自分なりにしっかりと設定を決めてデザインしなおしています。説明できるほどしっかり文章化した設定ではないので公開するようなものではないですが。
ひとつばらしてみると、ゼブの間の背景の顔は巨人霊廟のモチーフにしたカンボジアのバイヨン遺跡の人面仏塔をもとにしてます。これは、巨人が母をあがめる為に作ったので、巨人族と同じような顔つきで作られていると言う設定。
言わなきゃだ~れも気づかないと思う部分ですが、このフィールドに限らず各種族ごとに石像の顔つき変えてます。「顔」という同じモチーフでも、エジプトとシュメールと中国では描き方が違うと言うか、その人種の顔つきが想像できるというか。遺跡好きのこだわりです。
攻略本下巻には載せたんですが、各種族ごとに地球上のどの文明に影響を与えたかとかまで考えてたんですよね~。これを考えてるときは楽しかったねぇ~。

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オリジナルにはなかった要素で言えば、背景の遠くのほうに正面向いた巨人像がいっぱいならんでます。これは巨人「族」っていうぐらいだから、メインの9人以外にもいっぱいいるよってことで。
メインの巨人どもが並ぶ部屋には女性像が並べてあります。これは、「巨人族にも女はいただろう」って感じで。モチーフはカンボジアのバンテアス・スレイ遺跡の壁画から。「東洋のモナリザ」で調べてもらうとわかるでしょう。

長くなった。
オリジナル版のときの巨人霊廟の反省点は、「この種族にだけストーリーが付いてて使いやすすぎた」ってことです。
他のフィールドでも何かあると「巨人が作った」「巨人のしわざ」っていう風にこじつけやすかったんですよねー。だからリメイクでは巨人族以外にもバックボーンを決め、新たに巨人がらみのネタを増やさないようにと心がけて作りました。
泣ける話にしようと思ってなんかないんですー。むしろこれだけ具体的すぎてこまってるんですー。

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Comments

  1. オリジナル版ではあの天文台とサキトさんの強さに憤死しました…
    ってあそこにもきちんとした攻略載ってなくて我しょんぼりー!
    天文台で本当に5時間くらい時間つぶしたんですよ、その後のサキトさんはさすがに投げて他行きましたが。
    リメイク版で一番よかったと思ったのも天文台(with巨人像倒壊)でした。
    サキトさん?もちろん後回しですよ。

  2. 謎解きの上で全員の名前と何をしたかを覚えるので感情移入しやすいのでしょうね。
    双連や迷いなどと比べると文章が簡潔で、初心者が適当にやっても解けてしまうのも魅力のひとつ。
    音楽も長すぎず激しすぎずで、前半から覚えやすいメロディーなので記憶に残ると思います。
    ※他のフィールドも同じくらい楽しめましたが、全体を覚えきるのは難しいものがあります。

    巨人霊廟といえば拳が飛んでいるのが印象的です、特に罠でゲートそばに落ちた後の脅威が。
    最初は硬いし動きが速くて苦手でしたが、突進中は脆いことに気づいてから大好きな敵になりました。
    他の敵も鞭の端で叩かないと跳んできたり、盾を持っていたりと良い練習相手ですね。

    Windows版ではウインドウ表示ができることもあって「見ている部分」が違うので、
    Wii版で経験したはずの仕掛けでも動きの見落としや違和感を覚えることが多々あって興味深いです。
    二度読みの石碑なら1度目に読んだ後の回転の仕方までもが違うように感じます。

    • ならむら says

      なるほどなるほど。
      1つのフィールドを解く為の行動自体が巨人の話を理解することにつながっているからだと。
      こりゃいい話をききました。

      実際仕掛けから修正をかけたところ意外は何もいじってないんですよ。
      違って見えるとしたら、Wii版と言うかTVで見るよりもくっきり見えるってのは原因としてあるかもしれませんね。
      あとはフルカラーになってたり、描画の仕組みが違うので見え方が少し違って見えたりはあるかも。

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